川崎市市民ミュージアムの収蔵庫が地下にあり、台風19号の通過後、収蔵庫の前に水が来ていた事は報じられていましたが、結局、全ての収蔵庫に浸水し、ほぼ全ての収蔵品(被害を免れたのは、収蔵庫の床から2m超に置かれていたもののみ)が水に浸かった事が明らかになりました。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201910/CK2019101902000138.html
上の記事では、「雨が降り続いた十二日夜、建物外周にある資材搬入用のスロープを通じて雨水などが地下に入り、収蔵庫や発電設備などが水没した。」「近くを流れる多摩川は、川崎市側での氾濫はなかったが、水位が上がったことで一帯の下水が逆流。すり鉢状の緑地に入った水が、最も低い同館地下に集中した可能性があるという。近くのJR武蔵小杉駅周辺も広い範囲で冠水し、タワーマンション地下が浸水して停電するなどの被害が出た。」「市は翌十三日からポンプ車で排水を続けたが、周辺の土壌から地下水が入り込むなどして水が引かず、五日後の十八日午後になって収蔵庫内部を確認できた」としています。

 建築設計は、故・菊竹 清訓(きくたけ・きよのり)氏。氏の設計資料なども水没したそうです。氏の設計の甘さを責める声も上がりそうですが、設計は発注者の要求仕様を超える事は少ないものです。立地場所は、低地であり、内水氾濫に対応する調整池もありますし、等々力水処理センター(下水処理場)もあります。等々力陸上競技場もありますが、第2調整池としての機能も持つ、各種施設に囲まれています。この事は、中原街道を扱った「ブラタモリ」でも触れられた事であり、扱った箇所が次々と天災に襲われる「ブラタモリの呪い」は、まだまだ健在の様です(「ブラタモリ」が最後の姿を映像に留めた、との言い方も出来ますが)。
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 ここは要求仕様から責めなければならないと考えます。そもそも、浸水被害が考えられる様なところで、地下に収蔵庫を置くなど論外。発注者側は、「浸水被害は『想定』の範囲外としてよい」と考えたのでしょう。その論理では、今回の浸水被害は、当然「想定外」となります。が、そう「想定」した責任をこそ、問うべきなのです。

 なお、川崎市市民ミュージアムの収蔵庫は、地下1階に9室ありましたが、その全てで浸水。実は、浸水当時、収蔵庫付近には警備員(指定管理者の社員)4名が、地下1階の監視室にいたそうなのですが、浸水が始まった事によって避難(更なる被害を防ぐ為、そこからマニュアル通りの対応はしていた模様)。その後は、浸水しているが為に中に入れなかったそうです。私は、「中には入れない」と云う情報を聞いて、気密性が高く作られているが故に、潜水艦の様な状況になり、誰も入れない(開いた途端に、気密性が低下し、隙間から水が侵入する可能性がある)のかと考えていましたが、事情は全く事なり、川崎市が悪い推測結果を、事実が確定するまで外に発表しなかっただけの様です。
https://www.kanaloco.jp/article/entry-203059.html
所蔵品の中には寄贈品もありますが、心配なのは寄託品。寄託品の場合、所有権は川崎市民ミュージアムではなく、管理を川崎市が行っているだけ。損害賠償請求の可能性はありますし、私の考えでは、所有者は損害賠償請求をすべきと考えます(川崎市への温情として、所有者が修復だけで納得するなら別ですが)。管理に瑕疵が無いならば、天災は損害賠償事由にはなりませんが、寄託の場合、管理者は善管注意義務(「善良なる管理者」としての義務)を負います。私の考えでは、今回の管理には明らかな瑕疵があるものと考えます。

 武蔵小杉駅周辺のタワーマンションの配電設備などが地下に置かれていた事など、川崎市の都市計画上の内水氾濫、浸水被害に対する甘さがあぶり出された格好です。それに対して、私が驚愕したのは、二子玉川駅前の堤防より更に多摩川寄りに建つ、平べったいマンション(恐らく、プラウドタワー二子玉川)が、今回の浸水被害を免れた、って事。多摩川との間に堤防はありませんが、もともと盛り土した上に建てられた事に加え、配電設備などは、2F以上に設置されていたそうです。事前の配慮・覚悟から来る事前準備の差だと感じます。
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 なお、今回の台風19号による浸水被害に関しては、地元の人は、浸水の範囲を把握しているものと思いますが、地元でない者には、浸水の範囲が判りません。例えば、川崎市市民ミュージアムと武蔵小杉の浸水は繋がっているのか否か。二子玉川方面の浸水とて、田園調布5丁目周辺は、丸子川の多摩川寄りだけが浸水した、との情報がありますが、狛江寄りの浸水範囲は、私にはよく判りませんし、狛江市内の浸水被害と繋がっているのか否かも判らない。事実を把握する事で、判る原因などもあるのですが…これらが判らない限り、公式発表があったとて、それの真偽を判断出来ません。もし公式発表が不正確だった場合、原因が間違ってしまい、対策を施したとしても、次も同じ様な被害を繰り返すしかありません。
 一応の報道された川崎市側の浸水範囲と推測される原因は、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191017/k10012136701000.html?utm_int=detail_contents_news-related_003 など。


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<23 Oct 2019追記>

 武蔵小杉には複数のタワーマンションがありますが、機械室や電源設備が地下にあっただけでなく、そこに浸水して停電やエレベータの停止に陥ったのは2棟だけなんだそうです。その2棟も、止水板があれば浸水を免れたかも知れないとの事。私自身は事実を検証していませんが、そんな報道がありました。


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<追記 on 28 Oct 2019>

週刊現代 2019年11月2・9日合併号に武蔵小杉の浸水の原因についての記事が掲載されました。私の読んだものでは、一番、しっかりと原因を説明しているものです。
https://news.livedoor.com/article/detail/17296257/
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191028-00068039-gendaibiz-soci

要約すると、

(1)武蔵小杉駅の南側の下水道は合流式(汚水と、大雨時の雨水を一緒に流す)、北側は分流式だったが、川崎市が内水氾濫を恐れ、水門を閉じなかった(水門が無い訳ではない)。
 その結果として、多摩川の水が下水道を逆流し、市街地で合流式下水道から溢れた(氾濫したのは、合流式下水道からの汚水+雨水+多摩川の水)。

(2)武蔵小杉の駅周辺は、周囲で最も低くなっており、(1)で溢れた水が溜まった。そして、タワーマンションの配電設備が地下にあった故に、停電し、上下水道が機能を失い、停電が長延いいた。

 今回、停電まで引き起こした武蔵小杉のタワーマンションは、僅かに2棟との報道を見ていますが、一つは「パークシティ武蔵小杉フォレストタワー」(https://ja.wikipedia.org/wiki/パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー 。マンション一棟でwikipediaの1項目が立っているとは思いもしませんでしたw)だそうです。他のマンション(あと1棟あるとの報道も)。